この記事の内容
看取りとは?
看取りと突然死の違いは、「予期した死」か「そうでない死」かになります。
医療者はこの死は「看取り」だと思っていても、もしご家族が理解していなければ、その死はご家族にとって「突然死」となります。
「死」の成り立ちが、傷ましいものであればあるほど、残されたものの人生に影を残します。
だから、私たちの仕事は、その「死」をできるだけ穏やかに、安らかなものとするお手伝いをすることに尽きると思っています。
死に向きあい、説明し、相手がどう受け止めたかまでつかみ、やりとりを繰り返します。
看取りというと、積極的な治療はあきらめるといった、世間的には消極的なイメージがあるかもしれません。
しかし、看取りは諦めの連続ではなく、体力が少なくなっていく中でどうすれば苦しくなく穏やかに過ごせるかという積極的な行動の連続になります。
積極的に患者さんの苦痛を緩和するということを目的として、あえて「治療しない」という選択肢もあります。
病状は日によって、ときには時間によっても変わります。
「死なないこと」を目標にすると必ず失敗におわりますが、「最後まで穏やかに過ごす」ことを目標にすると、患者さんやご家族だけでなく、医療者にとっても、相当のストレスの軽減になると思います。
「この先どうなっていくんだろう…」見えない未来は不安を煽ります。
その時々の状態をできるだけ正確に評価し説明し、今後起こり得る症状や予後を予測します。
何か困るような症状や変化が現れたら、こうしていくという、実際に起こるより「ちょっとだけ先回り」してこまめに説明していくことがポイントです。
余計な不安を与えずに、だけどちょっとだけ先回りすることで「説明の通りになった」と患者さんやご家族は思い、心の準備もできていきます。
1000人以上の患者と接した経験から、後閑さんが考える「理想の死」とは?
納得できる看取りは、老衰に近づけること
老衰とは、年をとって亡くなることではありません。
すべての臓器の力がバランスを保ちながらゆっくり低下していき、命を維持できないレベルまで低下し、命が続かなくなった状態が『老衰』です。
たくさんの患者さんを見送ってきて、なんとなく経験上そうだよなーと思っていたことを、緩和ケア医の平方先生が言語化されていました。
とても共感です。
老衰は年の取り方に理解や納得ができたり、つらい症状が少なくてすんだとか、満足だったり納得することができやすいです。
だから病気で亡くなる時でも、老衰とどこが違うのか、老衰に近づけるには何をすればいいかと考えながらケアしていくといいと思っています。
緩和ケア医の平方眞先生に、老衰や理想的な看取りについて聞いてきました。
詳しくは、こちらの対談をご覧ください。
16年にわたり医療現場で1000人以上の患者とその家族に接してきた看護師が伝える、家族など身近な人の死や自分の死を意識し…
死生観は人によって違うから、医学的に正しいことが、終末期の患者さんにとって望ましくないということも少なくありません。
その都度ベターを考えること!
医療者は「あなたはこういう病気です。この病気の治療法にはこういうものがあります。どうしますか」という説明ばかりをしがちです。
- まずは患者さんやご家族がどういう生活を望んでいるか
- どんな希望を持っているかを聞き
- それを叶えるためにはどういう医療があるかを説明し
- 納得して選んでもらうのが理想的なIC(インフォームド・コンセント)
と言えるでしょう。
本人やご家族が知りたいのは、詳しい病気の治療法ではありません。
治療をしたら元のように戻れるのか、病気によってこの先どんな生活になるか、という暮らしに直結するものだったりするのです。
わけがわからないまま医師の言う治療をした結果、あるいはしなかった結果、思っていた生活とかけ離れた生活になることもあります。
しかし、自分で選んだことには人は強くなれます。
必要な情報を手にし、自分でこうしたいと選ぶということが大切なのです。
ただし自分で選ぶものは、治療法ではなく自分の治療方針を任せる医療者の場合もあります。
必要なのは、日々の何気ない会話の積み重ねです
まず聞きましょう。
それを怠っていると、最期にやはり何も決められなくなります。
何を「好き」と思うのか、どうして「好き」と思うのか、そういう「自分らしさ」を話し合うのも「人生会議」です。
ですがもしものときのためだけでなく、いまからどう生きるかというプランを話し合うことでもあります。
先日亡くなった患者さんが家に帰るとき、夫の希望で本人が好きだったというミニーちゃん柄のパジャマを着せました。
普段からディズニーのパジャマを着ていた患者さんだったので、ディズニーが好きだったのかと聞くと、ディズニーに家族で行くことが好きだったとのこと。
好きなものには、思い出という付加価値もつくのです。
私も好きなものに囲まれて死にたいと思いました。
まとめ
- 看取りとは予期した死を見送ること
- 看取りは諦めの連続ではなく、体力が少なくなっていく中でどうすれば苦しくなく穏やかに過ごせるか、老衰に近づけることができるかという積極的な行動の連続
- 何を「好き」と思うのか、どうして「好き」と思うのか、そういう「自分らしさ」を話し合うのも「人生会議」。納得するためには「人生会議」が必要。
「死」イコール「恐怖」と感じる人もいるかもしれませんが、「死」は人生の一部であり、「死」だけがその人の人生のすべてではありません。
本人やご家族だけでなく、私たち看護師にとっても、後悔だけで終わらせないために、心をこめた看取りケアをしていきたいですね。
後閑愛実(ごかん・めぐみ) |
正看護師。BLS及びACLSインストラクター。看取りコミュニケーター 2002年群馬パース看護短期大学卒業、2003年より看護師として病院勤務を開始する。
以来1000人以上の患者と関わり、看取ってきた患者から学んだことを生かして「最期まで笑顔で生ききる生き方をサポートしたい」と2013年より看取りコミュニケーション講師として研修や講演活動を開始。 現在は病院に非常勤の看護師として勤務しながら、研修、講演、執筆などを行っている。雑誌「月刊ナーシング」で連載中『まんがでわかるはじめての看取りケア』の原作執筆を担当。 著書に『後悔しない死の迎え方』(ダイヤモンド社)がある。 後閑愛実WEBサイト https://www.megumitori.com/ |
イラスト:なかもと ゆき |
多摩美術大学卒業後、フリーの作家・デザイナー・イラストレーターとして活動。
デザインフェスタはじめ様々な展示に多数出店。 2018年「月刊ナーシング」で『まんがでわかるはじめての看取りケア』の連載を開始。イラストを担当。 『後悔しない死の迎え方(後閑愛実著)』では、挿絵を担当。 現在YouTubeで「ゆき味アートチャンネル」を開設、ものつくりの楽しさを発信している。 チャンネルURL:https://www.youtube.com/ |