ともすれば最悪となるような人生の重要な時期。できるだけ穏やかに迎え、ツラさを少しでも軽くする。
それができるのが最後に関わる医療介護職です。
女優の樹木希林さんが2016年に新聞広告に載せた「死ぬときぐらい好きにさせてよ」
衝撃的なキャッチコピーで話題になりましたが、本当にその通りだと思いました。
人生でまわりの中心にいて最も注目されるのが、「生まれるとき」「結婚するとき」「死ぬとき」と言われます。
生まれるときは、自分の意思を反映することができません。
結婚するときも、相手がいることなので、全てを自分で決めるということはできません。
でも、死ぬときは、自分の意思を反映できるのです。
全て思い通りというわけにはいかなくても、人生の締めくくりは本人参加で主体的にすすめていってほしいと思っています。
人生で、一番ツラくて、一番人の力を必要として、一番輝く最期…
そのかけがえのない時間に携われる看護師は、尊い職業だと思っています。
「まだ生きていてもいいかな」って思えるように
看取りだからといって、特別なケアが必要というわけではありません。
なにかをしたいというのは、本人のどう生きたいという意思でもあります。
最初から、「そんなことしたら危ないから無理」と決めつけて否定するのではなく、たとえ試した(あるいは試そうとした)結果できなかったとしても、やろうとしたという「応じる姿勢」が大切なのではないでしょうか。
たとえば、嚥下機能が衰えている人が「食べたい」と言ったら、形態や姿勢、どうしたら食べられるか方法を考えて試してみるとか。
たしかに誤嚥や窒息の危険性もありますが、そもそも喋る機能と食べる機能は似たような筋肉の動きをしますのでしゃべれるなら食べられます。
食べられなくても、ジュースやお酒など本人の好きなもので口腔ケアをしてみるとか。(最後は拭って口の中を綺麗にする必要はありますけど)
本人だってはじめから試してもらえないのと、試してみたけどできなかったでは気持ちも違います。
「なにかをしたい」は「こう生きたい」という意思です。
否定することは、本人の生きる意思を否定することになります。
「早く死にたい」と言われることもあります。
その気持ちも否定せず、「こう生きたい」という意思がたとえなかったとしても、「まだ生きていてもいいかな」って思えるような日々を過ごせるようにケアがしていきたいと思っています。
人生に興味を持つこと
4コマ漫画の内容は、実際に私が体験したことです。死の間際に人生最高と言えるなんて素敵ですよね。
がんの末期にある患者さんに、これまでの人生を振り返り、自分にとって最も大切になったことをあきらかにしたり、周りの人々に一番憶えておいてほしいものについて話す機会を提供する『ディグニティーセラピー』というものがあります。
「ディグニティ」とは、尊厳という意味です。
考案者はカナダのマニトバ大学精神科教授チョチノフ博士で、終末期の患者さんの尊厳を維持することを目的とする精神療法的アプローチのひとつです。
人は亡くなるときに、自分の人生を完結させて亡くなっていきます。
あなたも人に話をしていると、いろんな話を思い出すことがないでしょうか。
「こういうことがあってね、そういえばこんなこともあって」と自分自身で話を思い出すこともあれば、「それってどういうこと?」と聞かれることで、「それはねー」とまた話が膨らんだりします。
一人で人生を振り返っても数分で終わってしまうかもしれませんが、人に話をすることで、いろんなことを思い出します。
そうして、「いろいろあったけど、俺の人生はこんな人生だった」と自分自身で完結させるのです。
私たちは、病院に入院してきた、あるいは在宅や施設で病気になってからの患者さんしか知らないでしょうが、その方はそれまでにいろんな彩り豊かな人生を生きてきているんです。
切り取った“いま”だけを見るのではなく、そこに至った過程にも思いを寄せてみましょう。
背景をしれば、接し方がきっと変わってきます。
時間はないかもしれませんが、ちょっと立ち止まって話をしてみてほしいです。
日々の何気ない会話も、全てケアのひとつです。
まとめ
- 穏やかな日々を過ごせるように考え続けること
- 穏やかに過ごしてもらうための全てが看取りケア
- 人生を完結させる尊い時期に関われることに感謝
自分の身体に別れを告げるとき、「最高の人生だったね、おめでとう!」と声をかけられるような人生を送りたいと思っています。
あなたはあなたの身体に、なんて言ってお別れしたいですか?
後閑愛実(ごかん・めぐみ) |
正看護師。BLS及びACLSインストラクター。看取りコミュニケーター 2002年群馬パース看護短期大学卒業、2003年より看護師として病院勤務を開始する。
以来1000人以上の患者と関わり、看取ってきた患者から学んだことを生かして「最期まで笑顔で生ききる生き方をサポートしたい」と2013年より看取りコミュニケーション講師として研修や講演活動を開始。 現在は病院に非常勤の看護師として勤務しながら、研修、講演、執筆などを行っている。雑誌「月刊ナーシング」で連載中『まんがでわかるはじめての看取りケア』の原作執筆を担当。 著書に『後悔しない死の迎え方』(ダイヤモンド社)がある。 |
イラスト:なかもと ゆき |
多摩美術大学卒業後、フリーの作家・デザイナー・イラストレーターとして活動。デザインフェスタはじめ様々な展示に多数出店。
2018年「月刊ナーシング」で『まんがでわかるはじめての看取りケア』の連載を開始。イラストを担当。『後悔しない死の迎え方(後閑愛実著)』では、挿絵を担当。 現在YouTubeで「ゆき味アートチャンネル」を開設、ものつくりの楽しさを発信している。 |