この記事の内容
誰でもミスはする!多かったミスは?
私の看護短大時代の卒論のテーマが「医療ミス」でした。
看護師と介護福祉士100名を対象に医療ミスのアンケート調査を行いました。
「医療ミスを意識しているか」との質問に、「非常に意識している」と答えた人が84人、「少し意識している」と答えた人が16人、全員が「意識している」と答えたのです。
そして「何らかのミスをした、あるいはしそうになった経験を持っている」と84人が回答していました。
ミスで多かった5つの内容
- 投薬(注射、内服薬、輸血、輸液)
- 患者の転落転倒
- 記録の記入ミス
- 針刺し事故
- 患者ないし家族とのコミュニケーショントラブル
アンケート結果で、かなりの人は複数回ミスをした、あるいはしそうになった経験があることがわかりました。
ミスの原因として、知識不足、経験不足、情報把握不足、思い込みをあげていたのですが、共通する原因としてあげていたのが不注意。
だれもがちょっとした不注意でミスを起こす危険性があります。
私もたくさんミスをしてきました。
はっきりいって、間違いや事故は個人の注意や努力だけで防げるはずと思っていたら大間違いです。
アクシデント報告書・ヒヤリハット報告書は罰ではない。
アクシデント報告書・ヒヤリハット報告書を書くが、罰のようになっていないでしょうか。
何かミスが発覚すると、「誰がやったの?」と犯人探しが始まりがちです。
犯人にアクシデント報告書(もしくはヒヤリハット報告書)を書かせ、その犯人だけを責め反省させるのでは、チームとして進みません。
報告書を書くのは、「ああいうときにああいうミスが起きうるんだ」というのを知り、再発防止に努めるためであり、個人への罰ではありません。
また、なぜミスをしたのかと反省文を書かせる罰となってしまうと、自己肯定感を下げることになります。
責任逃れのような自分に都合のいい言い訳をするようになることもあり、本末転倒です。
個人の注意で防げなかったからこそ起きてしまった事故は、全員で同じことが起きないようにするシステムを構築し共有することが必要です。
そのためにこのミスが起きた原因がなんだったのかを明らかにするためのものが、報告書です。
ミスは責めるべき罪ではなく、解決すべき課題
私たちの目的は安全で安心な医療を患者さんに受けてもらう環境を整えることです。
それに、たとえばあなたがミスを犯したときに「ミスを犯した人を責めるチーム」と「あなたのミスをカバーしてくれるチーム」の2つのチームがあったら、どちらのチームに貢献したいと思うでしょうか?
絶対後者ですよね。
必要なのは「犯人探し」ではありません。
いかにミスを起こさせないシステムを作るかが課題となります。
「次は注意する」では絶対防げない。
「注意する」は行動ではありません。
なにをどうすればいいのかわからないし、みんなが同じことができません。
みんなが同じ行動ができるように、行動を言語化することが必要です。
朝の経管栄養を注入するときに、内服薬の配役ミスが続いたことがあります。
- 薬を詰めるとき
- 配るとき
- 注入するとき
3回は名前を確認しているはずなのですが、夜勤中の一番眠い朝方です。
眠気と注意力の低下で、ついうっかりしてしまうのです。
ですので、間違えないようにするための行動を考えました。
経管栄養、内服をセットにして、一人ひとりケースに入れて配るようにしたのです。
経管栄養にも大きく名前が書かれた紙が貼ってあります。
これによってミスはなくなりました。
しかし、一人ひとりケースに分けるのはやや手間がかかるので、ミスが続いていた時期を知らない看護師からは「なんでこんな手間なことしてるの?」と言われたことがあります。
前にミスが続いたから、こういうやり方に変えたんですよと説明すると、なるほどと納得してくれました。
とくに他の病院での違うやり方を知っていると、あっちの方がいいとか意見もあるかと思います。
「どうしてこういう行動、やり方をしているのだろう?」と思ったら、そうなった経緯を聞いてみてください。
そこにはそうなった経緯があるのです。
その経緯を知った上で、よりよい改善案があれば提案してみてみましょう。
経緯を知らずに批判するのはやめて、ぜひ建設的にアイデアを出し合いましょう。
ミスで落ち込んだ時に気持ちを立て直す方法は?
ミスは解決すべき課題
そうは言ってもミスをすると落ち込んでしまいますよね。
でも、病院(職場)はあなたの心を守ってくれません。
あなた自身に、「自分の心を守る」という気持ちをぜひもっていただきたい。
そのためにオススメの本があります。
とっても読みやすくてココロの軽くなる本です!
この本には「ミスしてばかり」と落ち込んでしまう人へのアドバイスとして「一度の失敗を『永遠の大失敗』に置き換えない」と書かれています。
その通りだと思います。
「繰り返さない」より「振り返る」が大事
冒頭でもお伝えしましたが、ほとんどの人が「何らかのミスをした、あるいはしそうになった経験を持っている」のです。
つまりあなたが「この人すごいなー」と尊敬する人だって、ミスをしているのです。
1回の失敗で、あなた自身の全てをダメにしたなどと思うことはありません。
ミスを振り返り、どのように修正するのか考えることが大事です。
またミスをするかもしれません。
それは前の修正では足りないということがわかったということです。
また修正をすればいいのです。
自分で修正が考えられなかったら、周りを頼りましょう。
自分の弱さを認められる人こそが、成長していける人でもあります。
ミスを怖がってしまうあなたへのアドバイス
「不安は相手に全部パス」
これも井上智介著「1万人超を救ったメンタル産業医の 職場の「しんどい」がスーッと消え去る大全」に書いてあった方法です。
ミスしてしまうんじゃないかと怖く思っていたら、まさにそのときに声を出してみましょう。
自分が心配していることを声に出して聞かなかったら、ずっとモヤモヤが残ってしまいます。
頭でどうこう考えずに、声に出してその時の自分の不安や心配する気持ちと向き合うのです。
たとえば、血管が細い患者さんへの採血にミスして自信がなく、先輩に頼みたいとします。そんなときに…
もしこのようなやり取りがあったら、あなたはどのように感じるでしょうか。
「いきなり頼んだから気を悪くしたかな?」
「採血苦手だと思われたかな?」
「仕事押し付けたと思われたかな?」
ただでさえ患者さんとの対応に不安なのに、さらに先輩への不安を抱えることになってしまわないでしょうか。
先ほどのようにお願いしたいことだけ伝えると、先輩はもしかしたら…
(なんで私に頼むのよ、自分でやればいいじゃない)
(採血苦手なのかな?)
(全然違うこと考えてたから、いきなり頼まれてびっくりした!)
そんな風に思っているかもしれません。
ですから不安を感じた時は、その場でそのまま声を出してみましょう。
なるほど、じゃあ佐藤さんは私が行くから、かわりに鈴木さんの採血お願いしていい?
鈴木さんは血管わかりやすいし、何度もやれば自信もつくよ!
具体的に声を出すことで、先輩もアドバイスや対応しやすくなります。
まとめ
- ミスは責めるべき罪ではなく、解決すべき課題
- ミスを「振り返る」ことで改善し続けること
- ミスは一人で考えない パスしてみんなで共有すること
医療現場のミスは、患者さんの命に直結するかもしれないから、怖くて不安ですよね。
みんなそうなんです。
だからこそ、みんなでカバーし合い、再びミスを起こさせないシステムをつくっていきましょう!
後閑愛実(ごかん・めぐみ) |
正看護師。BLS及びACLSインストラクター。看取りコミュニケーター
2002年群馬パース看護短期大学卒業、2003年より看護師として病院勤務を開始する。以来1000人以上の患者と関わり、看取ってきた患者から学んだことを生かして「最期まで笑顔で生ききる生き方をサポートしたい」と2013年より看取りコミュニケーション講師として研修や講演活動を開始。 現在は病院に非常勤の看護師として勤務しながら、研修、講演、執筆などを行っている。雑誌「月刊ナーシング」で連載中『まんがでわかるはじめての看取りケア』の原作執筆を担当。 著書に『後悔しない死の迎え方』(ダイヤモンド社)がある。 後閑愛実WEBサイト https://www.megumitori.com/ |
イラスト:なかもと ゆき |
多摩美術大学卒業後、フリーの作家・デザイナー・イラストレーターとして活動。
デザインフェスタはじめ様々な展示に多数出店。 2018年「月刊ナーシング」で『まんがでわかるはじめての看取りケア』の連載を開始。イラストを担当。 『後悔しない死の迎え方(後閑愛実著)』では、挿絵を担当。 現在YouTubeで「ゆき味アートチャンネル」を開設、ものつくりの楽しさを発信している。 チャンネルURL:https://www.youtube.com/ |