看護師のキャリアップに繋がる資格・講習には、いくつか実践的なものがありますが、その中でも『特にこれはおすすめ!』というものを、看護師歴17年目のベテランとご紹介していく本企画。
今回は、BLS(basic life support)という一次救命処置についてご解説頂きました。
BLS(一次救命処置:Basic Life Support)プロバイダーコースは、1日のコースで、成人への心肺蘇生法だけでなく、気道異物の除去、AED(自動体外式除細動器)での除細動を学びます。また、幼児や乳児の小児への心肺蘇生法と気道異物の除去について学びます。
私がCPR(胸骨圧迫と人工呼吸)を初めてしたのは、看護師1年目のときでした。
救急車で運ばれてきた34歳の男性、会社で仕事中に倒れたとのこと。会社にはAEDがありました。
でも救急隊が来るまで、それを使ってくれる人は誰もいなかったのです。
私たちは病院で、懸命に蘇生させようとしました。
でもダメでした…
たとえどんなに優秀な医療者が病院で完璧な処置をしたとしても、第1発見者が何もしていなかったら助けられないのです。
AEDは普及しました。でもそれを使ってくれる人はまだまだ少ないのが現状です。
AEDを使ってくれる人を、目の前で人が倒れたら手を出して救命処置をしてくれる人を増やしたい、そう思ってBLS(一次救命処置)のインストラクターになりました。
この記事の内容
BLS講習は患者さんの命だけでなく、あなたの看護師生命を守ることにも繋がる
あなたはBLS講習を受けたことがありますか?
AHA(アメリカ心臓協会)のBLS講習を受け試験に合格すると、カードが発行されます。(現在はeカード)
カードの有効期限は2年間になります。受けたことがある人は、更新をしているでしょうか?
ガイドラインは、より蘇生率を高めるためにアップデートされ続けています。
有効期限を設け更新することを求めているのは、医療者もスキルをアップデートし続けることが必要だからです。
救命措置が不適切で過失が問われた事件がある
病院の医師が最新のガイドラインを知らなかったことがあり、私たち看護師がやり方を伝えながら対応するなんてことも実際ありました。
記憶は曖昧なもので、忘れてしまうこともあります。
看護師が行った救命処置が不適切であったという事案(仙台地裁平成28年12月26日判決)がありました。
クリニックの医療従事者が小児の患者に対し、
- 胸骨圧迫のみで人工呼吸を行わなかった過失に
- バックマスクを使った換気を行わなかった過失
- 救急隊に引き継ぐまで心肺蘇生を継続しなかった過失
の有無が争われました。
医療裁判では、事故当時の医療水準に見合った医療行為が実施されなかった場合、過失があったと判断されるのです。
最新のガイドライン通りに実施することは、最新の医療水準を遵守することになります。
患者さんの命を守るだけでなく、あなたの看護師生命を守ることにもつながるのです。
知っていてもできるかどうかは別物
BLSを現場でうまくできなかった原因で多いものに、「慌ててパニックになった」というものがあります。
知識はあり、技術があっても、慌てると普段できていることもできなくなります。
医療従事者は普段も役立つ人である方がいいですが、真価を問われるのは「いざという時」です。いつどこで、誰が突然倒れるかわかりません。
急変時の対応は常にできるようにシミュレーションし、何度も練習しておくことを強くお勧めします。
BLS講習がまだの人は、ぜひ受講しアップデートし続けましょう。
BLSの手順
- 周囲の安全と反応の有無を確認して、助けを呼ぶ
- 呼吸と脈拍(頸動脈触知)を評価する
- 次の処置を決定する
- 胸骨圧迫から質の高いCPRを開始する
- AEDを使用して除細動を試みる
- 質の高いCPRを再開する
手順は上記になります。
CPRは胸骨圧迫と人工呼吸で構成されます。
胸骨圧迫の方法
- 圧迫する場所は、胸部の中央(胸骨の下半分)
- 圧迫のテンポは、1分あたり100〜120回
毎回圧迫の深さ
- 成人の場合は5cm〜6cm
- 小児の場合は胸郭の厚みの少なくとも1/3(約5cm)
- 乳児の場合は胸郭の厚みの少なくとも1/3(約4cm)
- 圧迫を行うたびに胸郭を完全に元に戻す
人工呼吸の方法
- 胸骨圧迫30回に対して人工呼吸2回
- 携帯型フェイスシールドを使った口対口人工呼吸、またはポケットマスクやバックマスクを使った人工呼吸をする
これが、基本になります。
学校で習ったこともあるでしょうから、あなたも知っているとは思います。
知っていてマネキン相手ならできても、実際突然の心停止を目の前にすると焦ってしまいがち。
看護師でも焦ることはある|落ち着いて対応しよう
まずは落ち着いて対応できるように、できるだけ穏やかな口調でしゃべるように心がけましょう。
自分だけでなく、一緒に対応している看護師も焦っているものです。
そんなときは、「それじゃだめ」「ちゃんとやって」など非建設的な言葉ではなく、「もう1センチ深く押しましょう」「右手を2センチ手前に動かして」など、建設的にどのように修正すればよいかを明確に伝えましょう。
新人看護師や慣れていない方に教える場合
あとで振り返ってでもいいですが、よくできていた点を褒めることも大事です。
なぜなら、新人や普段やり慣れていない人は、あれでよかったのだろうか、自分のやり方が悪かったからあの人は助からなかったんじゃないだろうか…
と、気に病みバーンアウトしてしまう可能性があるからです。
一度心停止してしまえば、助からない方が圧倒的に多いものです。
「助けることはできなかったけど、自分たちは精一杯正しい方法で対応できた」と思えれば、傷つきながらも前を向いていけることでしょう。
AHA(アメリカ心臓協会)のBLS講習のよいところは、BLSの手技だけでなくチームでの関わり方を教えてくれるところにもあります。
チームでの関わり方は、なにもBLSに限らず日々の看護にも必要なスキルです。
ぜひ講習を受けてみてくださいね。
まとめ
今回のポイント!
1.なんども繰り返し練習し常にアップデートしておくこと
2.質の高いCPRを実施すること
圧迫30回:人工呼吸2回、深さは5cm〜6cm、リズムは100〜120回/分
3.効果的なチームで建設的にかかわること
参考文献 |
『BLSプロバイダーマニュアル AHAガイドライン2015 準拠』 American Heart Association シナジー 2016 |
BLSが受けられるサイト |
日本BLS協会:http://blsjapan.com/ 日本ACLS協会:https://www.acls.jp/public/dispatcher.php?c=Top 日本循環器学会:http://itc.j-circ.or.jp/ 日本救急医学会:https://www.icls-web.com/bls/outline.html |
ほかにもお近くでやっているサイトがあります。
探してみてください。
後閑愛実(ごかん・めぐみ) |
正看護師。BLS及びACLSインストラクター。 看取りコミュニケーター2002年群馬パース看護短期大学卒業、2003年より看護師として病院勤務を開始する。以来1000人以上の患者と関わり、看取ってきた患者から学んだことを生かして「最期まで笑顔で生ききる生き方をサポートしたい」と2013年より看取りコミュニケーション講師として研修や講演活動を開始。現在は病院に非常勤の看護師として勤務しながら、研修、講演、執筆などを行っている。雑誌「月刊ナーシング」で連載中『まんがでわかるはじめての看取りケア』の原作執筆を担当。 著書に『後悔しない死の迎え方』(ダイヤモンド社)がある。後閑愛実WEBサイト https://www.megumitori.com/ |
イラスト:なかもと ゆき |
多摩美術大学卒業後、フリーの作家・デザイナー・イラストレーターとして活動。デザインフェスタはじめ様々な展示に多数出店。
2018年「月刊ナーシング」で『まんがでわかるはじめての看取りケア』の連載を開始。イラストを担当。『後悔しない死の迎え方(後閑愛実著)』では、挿絵を担当。 現在YouTubeで「ゆき味アートチャンネル」を開設、ものつくりの楽しさを発信している。 チャンネルURL:https://www.youtube.com/ |